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4:転移・再発(再燃)がん

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転移がん

N1M1、N1M0、N0M1 および病期T4の全て(D1,D2)がこれに含まれます。 現在の医療レベルでは残念ながら完治は望み薄です。 ただ、小さなリンパ節転移のみがある場合には、リンパ節転移の位置や個数にも寄りますが、治癒の可能性もまだ残されています。
全国のがん専門病院30施設よりなる全がん協の調査データによれば、限局がん、局所浸潤がんの5年生存率は、 今やほぼ100%とされていますが、転移がんに関しては、かなり厳しい見方が多いようです。
しかし、全身で5カ所以内の骨転移症例ならば、5年生存率は70%とかなり高い数字の報告もあるので、転移がんというだけで「末期」と思って落ち込む必要はありません。
転移がんの患者さんの中にも、長期間(10数年) がんと共存しながらQOL(生活の質)を 維持しておられる方も居られますので、あきらめないことが肝要です。
骨関連事象(骨痛、神経圧迫、圧迫骨折等)に伴う痛みやQOLの悪化は、寿命にも影響を及ぼすと言われているので、 通常のがん治療と並行して、骨の健康を保ち、骨関連事象をしっかり予防する「骨マネージメント」が重要になってきますが、 これは次章の「骨転移」を参照してください。

がんが散らばっている以上、局所療法としての全摘手術や放射線治療はもはやほとんど意味をなしません。 転移個所が1〜2ヶ所に限定されており、諸条件が良い場合は、稀に治癒を狙って転移巣を叩くという放射線治療が試みられることもありますが、 効果のほどは定かではありません。一般的には難しいと言わざるを得ないでしょう。
標準的な選択肢は、全身療法としての薬物療法(内分泌療法や化学療法)に限られます。

薬物療法の詳細に関しては、統一されたガイドラインはなく、治療法は医療機関、担当医師によって異なるのが実情です。
内分泌療法のファーストラインとしては、近年、LH-RHアナログ剤(リュープリン or ゾラデックス)と非ステロイド系の 抗男性ホルモン剤(カソデックスが用いられることが多い)を同時併用するCAB(Combined Androgen Blockade)療法が 多くなってきました。
(注:MAB(Maximum Androgen Blockade)とも呼ばれています)
CAB療法に反応しなくなっても、「次の手」はまだいくつかありますので、主治医と良く相談の上、 どのような手順でどの治療法を選択するかが、QOLを保ちつつ、がんとうまく共存して行く重要なポイントとなってきます。
「次の手」の詳細は、「薬物療法のあの手この手」 をご覧ください。

  <主な標準治療>
  ・ホルモン療法
  ・放射線外部照射+ホルモン療法(N1M0)

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再発(再燃)がん

再発の定義

外科的手術や放射線療法の後(ホルモン療法併用の有無は問わない)、PSAの上昇などにより再び前立腺がんが検知された場合、 それらは「PSA再発」もしくは「生化学的再発」と呼ばれます。PSA再発に関しては明確に統一された定義はありませんが、 PSAの上昇具合を観察しながら、一定の閾値(カットオフ値)を超えた場合に、「PSA再発」とみなされ、 その閾値は、外科的手術をした場合なら ”0.2”、放射線治療だけの場合は ”最低値(nadir)+2.0” というのが大方の合意となっています。
放射線治療の場合のPSA再発の閾値をネットで調べると、”前回値+2.0(or3.0)”、”0.5以上の上昇が2連続” などの記述も見つかりますが、 これらはいずれも古い考え方です。
国立がん研究センター「がん情報サービス」の解説(「再発」の項)では”1.0”となっていましたが、これも最近改められました。
今日では高感度PSAによる定期的なフォローが一般化しているため、「PSA再発」が見つかっても、 この時点ではまだ症状もなく病変も見つからないことがほとんどです。
画像検査等で、転移や新たな病変が見つかった場合を「臨床的再発」と言いますが、「PSA再発」から「臨床的再発」に至るまでの 期間は長短様々、人によって大きく異なります。

再発の対応

前立腺全摘除術を受けた後、近傍部のみの再発と思われる場合は(この見極めは簡単ではないのですが)、 放射線による救済療法が有望ですが、手術単独あるいは放射線療法単独の場合に比べ、副作用は重くなる傾向があります。
前立腺あるいはその周辺への放射線治療をすでに受けていたならば、再び身体の同一部位に放射線治療を施すことはできないと言われていますが、 前立腺外にほとんど影響を及ぼさない小線源療法であれば、重ねてできないことはなく、 一部の医療機関では、まだ症例は少ないものの小線源シードによるサルベージ療法が実際に行われています。
 参照:放射線治療後に再発した前立腺がん
画像検査等により前立腺がんの転移が判った場合には、全身治療である内分泌療法ないし化学療法が標準的な治療法となります。
 参照:薬物療法のあの手この手

注意を要するPSA再発

「PSA再発」の場合は、すぐに生命の危険に結びつくわけではありませんが、リスクの高い再発として用心すべきなのは次の場合だと言われています。
   (1) PSAの倍加時間(ダブリングタイム)が6ヶ月以下である
   (2) PSAの上昇幅が年間2.0を超える
こうした場合だと、将来遠隔転移が出現する可能性が高く、前立腺がんのために天寿を全うできない可能性も、考慮に入れておく必要があるでしょう。
再発前立腺がんの治療法は、がんの進展度や、初めにどんな治療法を受けたかなど、様々な要因によって変わります。治療を受ける目的や狙いは様々です。
   ・とりあえず、がんを限局的に制御して症状改善を狙うのか
   ・がんそのものの治癒を狙うのか(再発がんではこれは難しい)
   ・それとも、がんと共存しながら穏やかな余生を願うのか
どのような治療を受けるにせよ、それによって生じるリスクも勘案しつつ、慎重に比較検討しなければなりません。

再燃:去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)

内分泌療法の継続にもかかわらず、前立腺がんが再び勢いを盛り返し成長し続ける場合、すでに薬物に対する耐性を獲得してしまったことを意味し、 この状態のがんを「再燃がん」もしくは「去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)」と称しています。

再発(再燃)前立腺がんの治療に対しては、医師と患者の目指すゴールが違っていては話になりません。
がんを背負いながら、どのように生きたいのか、どのような治療法を受けるべきか、医師と患者で考え方に食い違いのないよう意思疎通を図っておくべきでしょう。
医師は、これまでの治療経歴はもちろんのこと、患者固有のあらゆる条件(社会的環境や人生観など)への配慮が必要となりますし、 患者自信もはっきりと自分の希望を告げ、目指すゴールが同じであることを確認しておく必要があるでしょう。

これまでは、こうした「去勢抵抗性前立腺がん」に対しは、ドセタキセル(タキサン系抗がん剤)以外はほとんど打つ手がありませんでした。
2011年にいくつかの新薬が米国で承認されてからも、しばらくは指をくわえて海外事情をうらやましく眺める日々が続いていたのですが、 2014年、我国でもホルモン療法の新薬2種類とドセタキセル使用後にも使える抗がん剤1種類が、新たに承認されました。
「去勢抵抗性前立腺がん」に対する持ち駒が一挙に増えたわけで、これまでの新薬の停滞状況を思うと「パラダイムシフト」と言っても過言ではないのですが、 注意をしなければならないのは、すべての人に効果があるわけではないということと、大なり小なり一定の副作用は必ずついて廻るということです。
事実、新しい抗がん剤では、副作用に対するマネージメントの不備から死亡事故も発生しています。

臨床試験について

 ・がん情報サービス:臨床試験(治験)について

【臨床試験について】米国のサイトでは次のように書かれています
(日本とは事情が異なりますが、ご参考までに)

最新治療法のほとんどは臨床試験が行われています。臨床試験とは実際に患者を治療しながら、 新薬あるいは新治療法の有効性を評価する研究を行うことです。
新しい治療法というものは多くのがん患者の協力によってそれが評価されることにより、広く認知されてゆくものです。
臨床試験への参加は、患者にとって、よりよい治療に接する機会が得られると共に、がんの治療に関するあなたの知見を 豊かにしてくれるかもしれません。
臨床試験はがんのほとんどのステージ(病期)で利用可能です。もしあなたが臨床試験への参加に関心があるなら、 臨床試験のリスクとベネフィットについて主治医とよく話し合われてみてはいかがでしょうか。
がんの最新療法と臨床試験情報はあなたが最適な治療を受けるためには必要不可欠なものです。

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全摘除術後に再発した前立腺がん

全摘除術の後で次のようなケースが生じた場合には再発とみなされます。
 @PSAが下がり切らなかった場合(普通なら0.01以下になるはず)
 A一旦下がった後にPSAが再び上昇し0.2を超えた場合
手術時に採取した標本が断端陽性を示した場合には、がん細胞を取り切れていないことを意味しますが、経過観察を続けても、 PSAがさほど上昇せず、一定の値で安定することも珍しくないので、 これがそのまま再発に結びつくと考える必要はありませんが、それなりに慎重な対応が必要だと思われます。
局所再発と思われる場合には、放射線治療による救済療法が可能ですが、 遠隔転移と思われる場合には、ホルモン療法でがんと共存する以外に方法はありません。
生検でがんが見つかっても限局再発とは限らないので、転移がないという証拠にはなりません。 局所再発か微小転移かの判定は難しく、以下のような症例が重なると転移の可能性が高いと判断します。
 @PSA倍加時間が6ヵ月以下
 A術後PSA再発までの期間が2年以内
 Bグリソンスコアが8以上のハイリスク
放射線療法は近年目覚ましい進歩を遂げており、狙った範囲に集中的に高い線量を照射することができるようになりましたが、 この恩恵を被ることができるのは、実は放射線治療を初回治療として選んだ場合に限られます。
すでに前立腺がんを撤去してしまった状態で、その近傍のどこかにがん細胞が残っているという状態に対しては、 高精度照射は意味をなさず、より低い線量をより広範囲に照射することしかできません。 それでも、微小ながん細胞を死滅させることは可能ですが、高精度照射に比べれば線量が低いだけに効果も劣り、 かつ照射範囲が広い分、副作用も大きくなってしまいます。
また、術後救済療法として放射線治療を施されても、過半数の患者は、放射線治療後5年以内に再度PSAの上昇に見舞われると言われています。
「高リスク」の患者ほど、がんが限局部に留まっていない可能性が高くなるといえるでしょう。
救済治療としての放射線療法は必ずしも楽観的なものではありません。
 ・成功する場合もあれば、無意味に終わる恐れもある
 ・治療を受けるためには、またなんらかの生活上の不便さを我慢しなければならない
 ・これまで以上の副作用を被るかもしれない
このような点を総合的に判断し、今一度完治を狙い放射線治療に賭けるべきか、ホルモン療法を継続しがんとの共存作戦に切り替えるか、 あるいは臨床試験への参加を考慮すべきか(このチャンスは日本では少ないのですが)・・・を決断すべきでしょう。

全摘術後のPSA上昇の原因は、限局部の再発なのか、他の部位になんらかの転移が生じているのか、これを見極める必要があるのですが、 実際にはなかなか難しいところです。
日本人の場合は、前立腺がんの発生が欧米人に比べてかなり少ないのと同様、微小転移の存在率も、欧米人よりは低いと思われていますが、 術後のサルベージ(救済)照射によって完治するかどうかは、この見分け方が重要となってきます。
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放射線治療後に再発した前立腺がん

放射線治療後にPSAが急に上昇し、また自然に下がる場合があります。これはバウンズ現象と呼ばれていますが、 なぜこうなるのか、詳しい理由はわかっていません。
小線源療法では約4割の患者にこの傾向が見られるので、決して珍しいものではありません。
外部照射でも2〜3割の患者に見られるようなので、PSAが上がったと言って、急に慌てる必要はありません。 まずは落ち着いてしばらく観察してみることが必要でしょう。多くの場合、またPSAが落ち着いてくれるはずですから。
しばらく観察しても、やはりPSA値が上昇を続け再発が疑われる場合、 まず考えられるのは、始めから前立腺の外部に「微小転移」があったことが疑われます。 このような微小ながん細胞の存在は、現在の画像診断技術では、残念ながら検知のしようがありません。
従来(2次元)照射や線量の低い三次元照射などで、がん細胞を完全に死滅させるだけの線量が不足していた場合や、 なんらかの事情で、病巣全体をカバーしきれていなかった場合は局所再発の可能性も考えられますが、 近年は照射技術の向上に伴いこうしたケースはずいぶん減ってきました。
放射線治療後の救済療法としては次のようなものが考えられます。
 @手術・・・・・・癒着があったり合併症の程度も酷くなる可能性が高く、日本では実施例もあまり
       多くはありません。
 A凍結療法・・米国等では良く行われていますが、日本ではほとんど行われておりません。
 BHIFU・・・・・・低リスクの前立腺がんであれば、対象になりそうです。
 C小線源療法(LDR、HDR)・・・米国では救済療法として小線源療法を用いることがあり、
       そこそこ実績もありますが、日本ではまだ一部の施設でしか行っておりません。
放射線治療は基本的にはやり直しが効かないと思っても良いでしょう。
同じエリアへの再照射は、外部照射では不可能で、小線源療法でも厳密なコントロールができる高い技量が欠かせません。

放射線治療後に再燃した前立腺がんに対しては、通常内分泌療法が適用されます。
内分泌療法では、限局がんであれ、転移がんであれ、前立腺がんがどこにあってもその成長を抑えられることがメリットで、 再発前立腺がんは、通常、内分泌療法で一定期間のコントロールが可能と言うものの、 ほとんどの場合、ある時点以降再び成長を始め、押さえが効かなくなってしまいます。
内分泌療法で、前立腺がんの成長を防ぎ、病状を改善することはできますが、根本的な治療法とは言えません。 「期待余命」との比較で、内分泌療法でも十分と考えられる方もおられますが、他方、それでは不十分と考えて 再発前立腺がん向けの救済療法を模索される方もおられます。

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去勢抵抗性前立腺がん:CRPC

CRPC(去勢抵抗性前立腺がん)とは

以前は「ホルモン療法耐性がん」とか「ホルモン療法抵抗性がん」などと呼ばれていましたが、 現在はほとんどそのような言い方は無くなり、「去勢抵抗性がん」あるいは「CRPC」と言われることが増えてきました。
内分泌療法は、血液中の男性ホルモンのレベルを減少させ、前立腺がん細胞をいわば仮死状態に追いやる治療上ですが、 前立腺がんの多くは、たとえ内分泌療法で一定期間(しばしば数年)がん細胞の活動を押さえ込むことができたとしても、 結局、内分泌療法の継続にもかかわらず、再び勢いを盛り返してしまいます。 内分泌療法の効果の持続期間は、低分化がん(グリソンスコア:GS=8〜10)ほど短い傾向があると言われています。
ホルモン依存性であった前立腺がんも、男性ホルモンの大部分を占める精巣由来のテストステロンが枯渇すれば、 副腎経由のわずかなアンドロゲンだけでも生き延びられるよう、徐々にホルモン非依存性を強めて来ます。 このため、副腎経由のアンドロゲンも合せて遮断するCAB(MAB)療法が試みられているわけですが、 それにもかかわらず、やがては、男性ホルモンを完全に断たれてもなお生き延びていけるだけの強力な「去勢抵抗性」を獲得してしまいます。
こうなると比較的成長が遅いと言われている前立腺がんも急速に勢いを増し、多くの他部位のがんと同様、非常にやっかいな相手となってしまいます。
古くは、前立腺がんに効果的な抗がん剤はなく、「去勢抵抗性」となってしまっては数年程度しか生き残れないといわれて来ましたが、 進行前立腺がんに対する「ドセタキセル」の生存期間の延長効果が認められて、2004年には米国で承認され、 患者に残された治療期間は、従来よりもっと余裕があると考えられるようになってきました。
日本でも2008年からこれが使えるようになりましたが、 ドセタキセルにも抵抗性が生じてしまうとほとんど手の打ちようが無くなってしまうのが現状で、 CRPC(去勢抵抗性前立腺がん)に対しては、この抗がん剤が最後の砦と言われて来ました。
この限界に風穴が開けられたのは2011年の事、米国でのCRPC(去勢抵抗性前立腺がん)に対する新薬数種類の承認です。

新薬の登場

米国に遅れること3年、我国でも2014年になって新しいホルモン療法薬2種類と、ドセタキセルの後に使える新しい抗がん剤1種類が承認されました。
ホルモン療法薬とは、エンザルタミド(イクスタンジ)とアビラテロン(ザイティガ)です。
これらの薬はドセタキセルの前(プレケモ)・後(ポストケモ)、いずれでも使う事ができますが、新薬をドセタキセルの前に使うケースが多いように思われます。
エンザルタミド、アビラテロン、ドセタキセルの使用順序は、いずれでもかまわないので、まだ他にも数通りのパターンがありそうです。
特定の遺伝子変異(AR-V7)をもつ患者の場合には、これらのアンドロゲン標的薬に抵抗性を示し、ほとんど効果がない場合も多いので、 化学療法も重要な役割を持っています。
アビラテロンとエンザルタミドは、現状では大きな差はなく、副作用も概ね許容限度内と言われていますが、 2015年7月、アビラテロンの添付文書(説明書)には「重大な副作用」に「劇症肝炎と肝不全」を加えられました。 アビラテロンはプレドニゾロンとの併用が必要なため、ステロイドの副作用(疲労感、背部痛、悪心など)も加わるかも知れません。
カバジタキセルには(発熱性)好中球減少などの副作用が多く、特に骨髄抑制に対しては厳重な注意が必要です。

また、すぐに新薬に頼るのではなく従来の薬剤の組合せや用い方に工夫を凝らという方法も試みられており、 ホルモン療法にドセタキセルを併用するだけで著しくOS(全生存期間)が延びたという発表が、2014年のASCOで注目をあびました。

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の薬に対する米国での考え方を要約しておきます。

効果がはっきり実証されているのは次の6種類(我国ではEは未承認)
@アビラテロン+プレドニゾン、Aエンザルタミド、Bラジウム223
Cドセタキセル+プレドニゾン、Dカバジタキセル、EシプロイセルT

効果が期待できるかも知れないのは次の通り(FとGのニルタミド は我国では使えない)
Fケトコナゾール、G抗アンドロゲン薬(ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド)

米国では、女性ホルモン系のエストラムスチン(エストラサイト)は投与すべきでないとされていますが、 我国では心血管系の副作用が米国ほど多くないので、プロセキソールやエストラムスチンはしばしば用いられてきました。
米国のようにすみやかに新薬中心の治療に移行すべきなのか、従来から使われていた薬を試したあとでも十分と考えるべきなのか、 この辺りの対応には、まだ専門医の間でも意見の違いがみられるようです。

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薬物療法のあの手この手

 

CAB療法(MAB療法)

精巣由来の95%の男性ホルモン(テストステロン)はLH-RHアゴニスト剤で防げますが、 副腎(および前立腺がん細胞自身)からの5%の男性ホルモン(副腎性アンドロゲン)も合わせて防ぐには、 抗アンドロゲン剤を併用する必要があり、 LH-RHアゴニスト(アンタゴニスト)剤と抗アンドロゲン剤の両方を用いて、出来るだけ完全に男性ホルモンの供給を断つ治療法のことを、 CAB療法(Combined Androgen Blockade)もしくは MAB療法(Maximam Androgen Brockade)と呼んでいます。
内分泌療法の一次療法としては、LH-RHアナログ剤単独よりも、LH-RHアナログ剤(リュープリン、カソデックス)に抗男性ホルモン剤を併用する CAB(Combined Androgen Blockade)療法(MAB(maximam androgen blockade)療法とも言う) のほうが多くなってきました。(内分泌療法の70〜80%)
性欲減退や性機能障害を嫌う場合は、非ステロイド性の抗男性ホルモン剤を単独で用いることもありますが、効果は限定的なので、 PSAの上昇スピードが速いと思われるケースでは、LH-RHアゴニスト(orアンタゴニスト)との併用(CABorMAB療法)のほうが無難でしょう。
LH-RHアナログ剤に組み合わせる抗男性ホルモン剤としては、 ステロイド系(プロスタール)よりは非ステロイド系(カソデックスやオダイン)のほうが効果が高く、 非ステロイド系ではオダインのほうが肝機能障害の懸念が強いため、まずはカソデックスとの組み合わせが多いようです。
 

フレアアップ現象

LH-RHアナログ剤は、 LH-RH(黄体ホルモン放出ホルモン)の類似薬である為、投与後数日間はLHの分泌を刺激し続け、 一時的にテストステロンの量が急増するので、これを「フレアアップ現象」と呼んでいます。 そのため、たとえ一時的にせよ症状などが増悪することがあり、骨転移(骨痛)を有する患者等には特に注意が必要です。
MAB療法を行う場合に、先に抗男性ホルモン剤を投与し、PSAを低下させてから、LH-RHアナログ剤を投与することが多いのはこのためです。
フレアアップ現象を伴わないGn-RHアンタゴニスト(デガレリクス:ゴナックス)が、2008年にFDA(米国食品医薬品局)で承認され、 日本でも2012年から使えるようになりました。
 

アンチアンドロゲン(抗男性ホルモン剤)除去症候群:AWS

内分泌療法中にPSAが上昇する原因の一つに、抗男性ホルモン剤が、いつの間にか男性ホルモンと同じように、がんを増殖させる方向で働いている場合があります。 このような場合は、抗男性ホルモン剤(アンチアンドロゲン)の投薬を一時的に(オダイン、プロスタールなら4週間以上、カソデックスなら8週間以上) 中止することによって、PSAが降下する現象が現れることがあります。 これをアンチアンドロゲン(抗男性ホルモン剤)除去症候群AWS:anti-androgen withdrawal-syndrome)と呼んでおり、内分泌療法のトータルな有効期間を延ばすためには、この有無の確認も重要となってきます。
 

アンチアンドロゲン(抗男性ホルモン剤)交替療法

抗アンドロゲン剤を別種のものと取り替える 「アンチアンドロゲン交替療法」は、内分泌療法の二次療法として必須です。
カソデックス(ビカルタミド:非ステロイド系)→オダイン(フルタミド:非ステロイド系)→プロスタール(酢酸クロルマジノン:ステロイド系) という流れが一般的です。
 

エストロゲン(女性ホルモン)・ステロイド

三次内分泌療法と言えるのが、エストロゲンやステロイドの投与です。
女性ホルモン剤は、副作用(心血管系障害)の懸念があって、米国ではかなり慎重に扱われていますが、日本では一部の 合成女性ホルモン剤(ホンバン)が製造中止となったものの、まだ同類の薬剤(プロセキソール、エストラサイト) エストロゲン剤は、米国では、副作用(心血管障害)の恐れ、環境ホルモンへの懸念から、投与には慎重となり、あまり使用されなくなってきました。 我国でも、かつて合成女性ホルモン剤として良く使われていた「ホンバン」は製造中止となりましたが、 同類の薬剤である「プロセキソール」と「エストラサイト」は、現在もまだ用いられています。
エストラサイトは、女性ホルモンのエストラジオールと抗がん剤のナイトロジェンマスタード(アルキル化剤)を化学的に結合させたもので、 抗がん剤の部類に含めることもあります。
しかし、新薬の承認(2014年)以降はあまり使われなくなってきたようです。

ステロイド(糖質コルチコイド)の低用量投与は海外では確立された治療法とはなっていないようですが、日本では比較的多く用いられており、 デキサメタゾン(デカドロン)、プレドニゾン(プレドニン)などがその例です。
これも、新薬の承認(2014年)以降はあまり使われなくなってきたようです。
 

間欠療法(IAS:intermittent androgen suppression)

副作用の軽減とPSA制御期間のトータル的な延長を狙って、数ヵ月ないし1年前後の間隔で内分泌療法の休止と再開を繰り返す方法もあります(間欠療法)。 間欠療法の優位性の検討についてはいくつかの論文がありますが、生存率においては、今のところ持続的去勢より優位であるという明確な証拠はありませんが、 逆に劣るという証拠もないので、休薬期間だけでもホルモン療法による副作用の軽減につながるので、患者にはかなり大きな利点があると思われます。 千葉医療センターにおける臨床試験の結果報告では、75ヶ月経過時点のPSA非再燃率は、間欠投与85%に対し、持続投与は60%で、 間欠療法のほうが有意にすぐれているというデータもあります。(Urology View vol.7 2009)
まだ、確立された治療法とは言えず我国ではさほど普及はしていませんが、内分泌療法に対し反応性が良好でPSAの動きも比較的安定しているなら、 試してみる価値はありそうです。
休止期間中のQOLの改善は間違いありませんし、個人の出費の軽減は医療費全体の軽減にもつながることなので、 患者としてももっと関心を持ってしかるべき治療法だと思っています。
間欠療法のやり方は定まっていませんが、一例を示すと次のようになります。
9ヵ月以上内分泌療法(CAB)を続けてから、CABを中止、再開時期はPSA値の10〜15を目安とし、これを繰り返します。 投与再開後6ヵ月でPSAが1.0以下となり、9ヵ月までに最低値に達することが理想です。

デガレリクス(ゴナックス)

2012年に承認。リュープリン、ゾラデックスはLH-RHアゴニスト(類似薬)ですが、これはLH-RHアンタゴニスト(阻害薬)。
GnRHは脳の視床下部で産生されるホルモンであり、脳の下垂体に存在するGnRH受容体に結合することにより、テストステロンを産生しますが、 この結合を阻害することによってテストステロンの産生を低下させ、前立腺がんの増殖を抑制します。
アゴニスト(類似薬)と違って、フレアアップ現象を来さないのが利点。
 

エンザルタミド(イクスタンジ)

2014年に承認。開発コード:MDV3100と称されていたもので、1日1回投与の経口薬。
去勢抵抗性前立腺癌患者(CRPC)を対象とした新しいタイプの抗アンドロゲン剤で、 アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤としての作用のほか、アンドロゲン受容体の核内移行とDNA結合、活性化補助因子の動員を抑制するもの。
海外で実施したフェーズ3臨床試験(AFFIRM試験)では、全生存期間(OS)の中央値が4.8か月延長された。

アビラテロン(ザイティガ)

2014年に承認。アンドロゲン合成酵素であるCYP17を選択的に阻害することで抗腫瘍効果を示すCYP17阻害剤。 プレドニゾロンと併用し、通常は1日1回1,000mgを空腹時に経口投与する。
精巣や副腎だけでなく前立腺がんの組織内にも作用し、男性ホルモンをシャットアウトする。
化学療法の既治療、未治療、いずれにおいても全生存期間(OS)の延長が認められた。
併用薬としてプレドニゾロンが必要で、副作用もそれと見られる症状(疲労感、背部痛、悪心など)が多い。

RI内用療法

2013年5月、FDA(米国食品医薬品局)は、骨転移を有する(他臓器に転移のない)去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として、 ラジウム-223を、予定より3ヵ月前倒しで承認した。
臨床試験では全生存期間が約3ヶ月延長することが確認されている。
我国ではベータ線を放出するメタストロン注(ストロンチウム-89)が、治療用放射性医薬品として用いられてきたが、 2016年3月に、アルファ線を放出するラジウム-223が新たに承認された。 アルファ線は、ベータ線に比べて放射線のエネルギーが数倍高いが、飛程距離はうんと短いため紙1枚でも遮蔽でき、 体外に放射線が漏れる心配はない。
(次章「骨転移」も参照のこと)

抗がん剤

・タキソテール(ドセタキセル:抗がん剤)
タキソテールは前立腺がん患者の生存期間を有意に延長することが明らかになり、米国では2004年に、日本では2008年に承認されました。
ドセタキセルの使用開始時期、使用法(単剤かステロイドとの組み合わせか)、投与量等に関しては、 まだ一定の見解はなく、それぞれの医療施設で扱いが異なるのが実情です。
我国の場合、用法で一番多いのは、エストラムスチンとの併用、次に多いのがタキソテール単剤(3週毎)ですが、 「タキソテール、エストラムスチン、カルボプラチン」の3剤併用も「PSA効果」、「無増悪期間」で成績が良く、 副作用(有害事象)も比較的少ないとう結果が出ています。
タキソテールの容量は海外では75mg/uが標準ですが、我国では副作用への懸念から70mg/u以下とする場合が多いようです。
副作用で多いのは、白血球(好中球)減少と末梢神経障害で、重篤な障害としては間質性肺炎があるものの頻度は少ないようです。 一時的にPSAが上昇するフレアアップ現象が見られることもあるもので、観察には注意が必要です。

・カバジタキセル(ジェブタナ:抗がん剤)
2014年に承認。ドセタキセルの治療歴を有する去勢抵抗性前立腺がんに対して用いられるタキサン系の抗がん剤で、細胞内の微小管に作用して細胞増殖を阻害する。
臨床試験では、全生存期間を2.4ヶ月(中央値)延長した。
好中球減少症や発熱性好中球減少症などの骨髄抑制や腎不全など多くの有害事象が報告されているので、使用には細心の注意が必要で、 G-CSF製剤(注)の適切な投与と、生ものを食べないなど、医療サイドのしっかりしたマネジメントが欠かせない。

注:G-CSF製剤とは遺伝子組換え技術によるタンパク質製剤。
  好中球(白血球の一種)を選択的に増加させ、その機能を高める働きをする。
  がん化学療法による好中球減少症の回復と、それに伴う様々なリスクを低下させる。
  2014年に承認されたジーラスタは投与回数の少ないのが利点。

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薬物療法の手順

 

新薬登場以前の考え方

進行前立腺がんに対する薬物療法の手順は、ガイドラインとして確立されているわけではありません。 医療機関あるいは主治医によって判断は様々ですが、比較的新しいと思われる考え方を示しておきます。
抗がん剤(タキソテール)の開始時期についても意見が割れるところですが、フローチャート(1)が参考になると思われます。

  ★ フローチャート(1)

flowchart-2.png(23252 byte)


  ★ フローチャート(2) ・・・ 国内で比較的多い例を示す
フローチャート

・抗男性ホルモン剤には非ステロイド系(カソデックス、オダイン)とステロイド系(プロス
 タール)がある。ステロイド系の効果は非ステロイド系より弱い。
・カソデックスとオダインでは、一般にカソデックスのほうが肝機能への影響が小さい。
・女性ホルモン剤のホンバンは製造中止となり、現在はプロセキソール等が用いられている。
・エストラサイトは血栓に注意(肺塞栓・脳梗塞・脳血栓・心筋梗塞等の危険性)
・抗男性ホルモン剤に耐性が生じても一旦中止後再使用すれば再度効果が復活することもある。

 

新薬登場以降の考え方

新薬の登場により、CRPC(去勢抵抗性がん)に対する治療法もその幅が広まってきました。
我国ではまだ医療者の考え方も手探り状態が続いているように思えますが、新薬の承認が我国より3年ほど早かった米国では、 AUA(米国泌尿器科学会)の「去勢抵抗性前立腺がん治療ガイドライン:2013年」も公表されています。
かなり新薬を優先する考え方のようにも思えますが、これも参考にはなるでしょう。 できるだけシンプルな一覧表にまとめてみたのが下の図です。

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今後期待される薬

(注)第V相臨床試験に至らないものは省略しました。(順不同)
FDA(米国食品医薬品局)が承認済みでも、我国で承認されるまでのタイムラグは数年あります。 ドラッグ・ラグという呼び名でこれが問題視されていますが、これらの薬剤の恩恵に浴するのは、 まだしばらく先と思っていただいたほうが良いでしょう。
現在国内でこれらの薬剤を用いた治療(or治験)を受けることは困難だと思われます。

プロベンジ

ホルモン不応性前立腺がん患者を対象とした第V相臨床試験で全生存期間の延長が判明。
2010年にFDA(米国食品医薬品局)により承認。世界的にも注目をあびている免疫系がん治療ワクチンだが、 費用は9万3000ドルと高く、信頼度もさほど高くないもよう

ブロプレス:アンジオテンシンU受容体遮断薬(ARB)

日本では降圧剤としての使用が一般的。
進行前立腺がんにも一定の効果がある。(標準治療ではありません)

ニルタミド(Nilandron)

抗男性ホルモン剤(非ステロイド系:国内未承認)
ビカルタミド(カソデックス)やフルタミド(オダイン)と並んで、欧米では普通に使われている薬だが、日本では使えない。

Prostvac

PSAを標的とし、牛痘と鶏痘の水疱瘡ウイルスを用いて作られたワクチンで、 少ない副作用で生存期間中央値を8.5カ月延長させることがフェーズ2試験で判明し、期待が高まっている。
現在、世界20カ国以上の約300施設が参加するランダム化フェーズ3試験が進行中。
FDA(米国食品医薬品局)によるファストトラック指定(優先審査対象指定)を受けている。

注記(TAK-700)

非ステロイド系の男性ホルモン合成酵素阻害薬で臨床試験の途中成績が良好で、 長らく動向が注目されてきた新薬候補でしたが、最終的に全生存率を改善するという明確なデータが得られず、製薬会社が自主的に開発を断念した。(2014/06)

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